大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1834号 判決

当裁判所の判断は次の点を附加するほか原判決の理由に説示するところと同じであるから、これをここに引用する。

一、(控訴人の一、の主張について)

成立に争いのない甲第二号証の二、乙第一、三号証、原審証人渡辺軍治、同渡辺良忠(第一回)の各証言によると、蓋体を除去しないで外部から内部を透視することができ便利であるところから、計器箱等を透明合成樹脂で製造することが本件実用新案出願当時すでに公知であつたことが認められるから、本件実用新案が全体を合成樹脂で一体に形成し蓋箱を透明合成樹脂とした点は公知に属するものというべきである。次に前記甲第二号証の二、本件権利の実施品であることにつき争のない検甲第二号証、原審証人渡辺軍治の証言により昭和二九年一月頃内外電機製作所製造の金属製計器箱であることが認められる検乙第一号証、同証言によると、底箱と蓋箱の嵌合部分は、本件実用新案出願時以前に用いられていた鉄製の計器箱においては、蓋箱の下端部周辺が<省略>字形に張り出して底箱の周辺外側に密着するようになつており、底箱の上辺を折り曲げ、蓋箱の上辺をそれに引きかけるようにコの字形に折り曲げ、その各上辺を係合させ、下辺においてボルトでしめつけて密着させる構造となつているのに対し、本件実用新案においては、底箱の上辺には係合板、下辺には突縁を設け、蓋箱の下辺以外の端部周辺を<省略>字形に張り出させ、その上辺をさらに突出させて突出部を設け、その内方へ係合板を設け、下辺には突縁を設けてあり、底箱と蓋箱を、上辺において両係合板を係合させ、その周辺では底箱の周辺外側へ蓋箱の<省略>字形の周辺を密着嵌合させ、下辺においては両突縁を重ねてしめつける構造となつおり、両者を比較すると、技術的に同一であり、後者は前者を踏襲したものと考えられ、右嵌合部分の構造、形状を特に考慮してプラスチツク材質に適する構造としたものとは認められず、この点に考案の新規性は認められない。甲第二号証の一、原審証人黒川美雄、当審証人藤野彦治の各証言中右認定に反する部分は前掲証拠に照らし採用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。したがつて控訴人の一、の主張は採用し難い。

二、(同二、について)

原審証人渡辺軍治の証言、当審証人藤野彦治の証言の一部によると、電線引出孔を二箇の半円形で構成する構造は、底箱に真円の孔をあけて電線引出孔とする構造と比較すると、合成樹脂の成型加工上後者の金型にある穴のコマが不要であり、射出成型の場合製品を取るに当つてコマを抜く必要もなく、型の構造が簡単かつ操作が容易であることが認められ、右藤野彦治の証言中右認定に反する部分は前示証拠に照らし措信し難く、その他右認定を覆えすに足る証拠はない。右のように電線引出孔を半円形としたことの作用、効果について本件実用新案公報になんら説明されていないことは前記甲第二号証の二により明らかであるが、本件実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の項には「半円形の孔を設け」との記載があることは当事者間に争がないから、この点に前記のような作用、効果が認められる以上、仮りに右両構造が計器取り付けの際の処理上難易の差がないとしても、これを本件実用新案の要部と認めるに妨げないものというべきである。したがつて控訴人の二、の主張も排斥を免れない。

三、(同三、について)

本件実用新案が全体をプラスチツクとした点は前記のとおり公知に属するものというべきであるから、この点はその権利の範囲に属しない。また登録請求の範囲の記載および作用、効果の説明に溝4を本案の必要不可欠の構造として説明されていないとしても、前記甲第二号証の二によると、登録請求の範囲の項には「底箱の周辺に溝4をつくり」と記載されており、かつ実用新案の説明の項に「従つて外部からの湿気等が周辺に侵入することがあつても、湿気は凝縮して溝4中におち下方から外方へ流出され内部へ湿気が侵入されることがないので、中の計器は完全に保護せられる。」との記載があり、かつ原判決説示のとおり溝4に右のような作用、効果があることが認められる以上、溝4は本件実用新案の要部と認めるべきである。右認定に反する当審証人藤野彦治の証言は原審証人渡辺軍治の証言に照らし措信し難く、その他右認定を動かすべき証拠がない。したがつて控訴人の三、の主張も採用に値しない。

よつて原判決は相当で本件控訴は理由がない。

〔編註〕本件における控訴人の主張は左のとおりである。

控訴代理人は、一、原判決を取り消す、二、被控訴人は原判決添付物件目録記載の合成樹脂製電力計器箱を業として製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡または貸渡のため展示してはならない、三、被控訴人はその所有にかかる右合成樹脂製電力計器箱の製品、半製品および右計器箱の合成樹脂成型に使用する型を廃棄せよ、四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決と仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。当事者双方の主張および証拠の提出、援用、認否は左記のほか原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。

控訴代理人の陳述

一、従前の鉄製計器箱と本件実用新案の構造は材質が全く違うことにより必然的に各部の構造に顕著な差異が認められる。例えば、本件実用新案はオールプラスチツクであつて、鉄製のもののような強度がないので、底箱と蓋箱の嵌合部分の構造、形状を特に考慮してプラスチツク材質に適する構造としてあり、この点が本件実用新案考案者が最も意を用いて考案した点でありかつ考案の新規性を認められた所以である。登録された本案の外観が一見在来の鉄製のものの形状と似ていたからといつて出願当時において本件実用新案が特別の創意を要することなく考案し得たと断定することはできない。

二、プラスチツク成型において被控訴人のもののように円孔を開設することはなんら困難でなく、製作上の難易の差は実際的にほとんど認められない。現に被控訴人の円形孔の製品が支障なく多数製産され実施されていることからも明らかである。また、計器取り付けの際の処理についても、控訴人の本件実用新案の実施品も電線取り付けの際は被控訴人の計器箱にあると同等の円形孔の開いたゴムパツキンを上下半円孔で形成された円形孔に嵌めてこれに電線を通すものであつて、両者間に作業上の難易の差は認め難い。しかして、半円孔としたことの作用、効果については本件実用新案公報になんら説明されてなく、単に上下半円孔で出来た丸孔に電線を通すことを説明しているだけであり、実質的に作用、効果の同じである丸孔を開設した被控訴人の製品は本件実用新案と類似構造を有するといわざるを得ない。

三、本件実用新案出願当時本案のようなオールプラスチツク計器箱はなく鉄製のものが使用されていた事実から見て、本案がプラスチツクとした点に特徴が認められたものであること明らかである。また、登録請求の範囲記載および作用効果の説明には溝4を本案の必要不可欠の構造として説明されていないのであつて、溝4の有無により被控訴人の製品の類似性を否定することはできない。

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